社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

ホームへ戻る

緑ヶ丘療育園ーてんかんミニ知識

第15回 フェニトイン(アレビアチン)

2017-10-18

 フェニトイン(アレビアチン)は1940年に発売された古くからある抗てんかん薬で、昔はフェノバルビタール(フェノバール)と並んで非常によく使われていましたが、最近は下記のような理由であまり使われなくなりました。

 通常、抗てんかん薬は投与量と血中濃度が相関する線形動態をとります。すなわち、投与量を増やすと増やした分だけ血中濃度が上がるので、投与量の調整がしやすいのです。ところが、アレビアチンは非線形動態のため、投与量と血中濃度が相関しません。したがって、アレビアチンの有効血中濃度である5~20μg/mlを維持するための投与量の調整が大変難しくなります。血中濃度をもう少し上げたいために、適当であろうと思われる量を増やしても全然血中濃度が上がらない場合がありますし、逆にほんの少量増やしただけで20μg/ml以上の中毒濃度に達してしまうこともあります。また、いったん有効血中濃度域に維持された後、投与量を変更していないにもかかわらず血中濃度が上がって中毒濃度になる場合がありますし、逆に有効濃度以下に低下してしまうことがあります。そのため、定期的にアレビアチンの血中濃度を測定することが必要となります。

 アレビアチンの血中濃度が中毒濃度に達すると急性中毒症状としてふらつき、眼振、振戦などの小脳失調症状が出現しますので、おかしいと気付くのですが、重症心身障害児者では小脳失調症状の急性中毒症状に気付きにくいので、注意が必要です。アレビアチンを服用中の重症心身障害児者では急に嘔吐や眠気が出てきたときにはアレビアチンの急性中毒を疑って血中濃度を測定した方がよいと思います。

 アレビアチンの慢性中毒では小脳萎縮が生じ、進行すると、ふらつきがでてきたり、転びやすくなったり、歩けなくなったりするので、そのような場合は頭部CTかMRIをとるようにします。しかし、重症心身障害児者では上記の症状がアレビアチンの慢性中毒症状とは認識されずに、年齢や基礎の病態によるものとしてとらえられてしまうことがあるかもしれません。急性中毒の小脳失調症状はアレビアチンの減量、中止により改善して元に戻りますが、慢性中毒の小脳萎縮は不可逆的です。

 他の副作用としては、アレビアチンを長期に投与すると毛が濃くなりますし、歯茎が厚くなってきますので、美容上の問題がでてきます。また、てんかんミニ知識第14回テグレトールのところで記載しましたように、チトクロムP450という酵素の誘導による高脂血症や骨粗鬆症、薬疹、胎児への催奇形性の問題などにも注意が必要です。

 以上のようなことから、アレビアチンを継続服用中の場合には、アレビアチンを止めて副作用の少ない新規抗てんかん薬に切り替えていくことが望ましいのですが、この切り替えはなかなかうまくいかないこともあります。

 

                        てんかん外来  皆川公夫

第14回 カルバマゼピン(テグレトール)

2017-08-08

カルバマゼピン(テグレトール)は部分発作の第一選択薬ですので使用頻度の高い抗てんかん薬ですが、発作型の診断を誤って小児欠神てんかんや若年ミオクロニーてんかんなどの発作に使用すると逆に発作が悪化しますので注意が必要です。

テグレトールは服用開始後10日目前後に薬疹が生じることがあります。そのため、担当医はテグレトールを開始する際には予め患者さんに10日目前後に発疹がでてその日のうちにどんどん広がる場合にはテグレトールによる薬疹の可能性が高いのですぐにテグレトールを止めて担当医に連絡するよう指導しておくことが重要です。もし、そのことを知らずにテグレトールを服用し続けると目や唇などの粘膜が真っ赤に腫れて、高熱が出て、皮膚も水ぶくれになったりする重篤なスティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)に至る場合があります。テグレトールの薬疹にはヒト白血球抗原(HLA)が関係しており、漢民族ではHLA-B*1502、日本人ではHLA-A*3101が関連しているといわれています。

テグレトールは肝臓で代謝されますが、その際チトクロムP450という酵素を誘導します。このチトクロムP450酵素はコレステロールの合成にも関与しているので、テグレトールを服用しているとこの酵素が誘導されることによりコレステロールの値が高値になり、心血管系および脳血管系疾患のリスクが高くなることがあります。また、同様に骨代謝にも影響し、骨粗鬆症が起こりやすくなることもあります。ちなみに、グレープフルーツ(ジュース)はチトクロムP450を阻害するためテグレトールの血中濃度が高くなってしまうので、テグレトールを服用している人はグレープフルーツ(ジュース)を避けるほうがよいと思います。

テグレトールを飲み始めたら音が半音低く聞こえるようになったと訴える患者さんがいますが、絶対音感を持っている人が感じるようです。このメカニズムははっきり分かっていませんが、症状は1~2週間で消失することが多く、場合によっては少し量を減らすとすぐに正常な聞こえ方に戻ります。

他には、テグレトールにより抗利尿ホルモンの分泌異常(SIADH)が生じて低ナトリウム血症をきたすことがありますので、これにも注意が必要です。

テグレトールはナトリウムチャネルの急速な不活性化という作用機序により抗てんかん作用を発揮します。なお、1年前に発売された部分発作用のラコサミド(ビムパット)は他剤との相互作用がないので使いやすい薬ですが、ナトリウムチャネルの急速ではなく緩徐な不活性化というテグレトールとは少し違う作用機序のため、テグレトールとビムパットの併用は可能といわれています。

てんかん外来  皆川 公夫

第13回 バルプロ酸(デパケン):その2

2017-06-12

 女性にバルプロ酸(デパケン)による治療を行う場合にいくつかの注意点があります。

 一つは食欲が亢進して太りやすくなるので、年頃の女性には大きな問題となります。ちなみに、トピラマート(トピナ)は逆に食欲が低下して痩せることがあります。

 もう一つは女性が子どもを希望して妊娠を考える場合の問題点です。

 てんかんミニ知識第2回に書きましたが、バルプロ酸を服用していると多嚢胞性卵巣症候群がおこる場合があります。多嚢胞性卵巣症候群になると、不妊症となって子どもが授かりにくくなってしまうことがあります。

 一方、多嚢胞性卵巣症候群にはならずに無事妊娠した場合でも、葉酸が不足していたりバルプロ酸の1日服用量が多い場合には、胎児に神経管閉鎖不全が生じて脊髄髄膜瘤などの先天奇形を認めることがあります。脳と脊髄の基になる神経管は妊娠4週で形成されるので、妊娠がわかってから慌てて葉酸を服用したりバルプロ酸の量を減らしてももう手遅れなのです。ですから、子どもを希望する場合には計画的に妊娠する必要があります。

 まず、妊娠3ヵ月以上前から葉酸0.4mgを毎日服用します。葉酸はドラッグストアにある葉酸サプリメントが1錠0.4mg(400μg)ですので、これを毎日1錠飲み続けます。

 次に、主治医と相談してバルプロ酸を徐放製剤(デパケンRあるいはセレニカR)に変更し、さらに可能であれば1日量を600mg以下(できれば400mg以下)に減らします。バルプロ酸の1日量が1000mgを超えると神経管閉鎖不全による奇形が生じる確率が高くなるためです。また、母親が妊娠中に1日1000mg以上のバルプロ酸を服用していた場合には生まれた子どもの知能指数が軽度低かったという衝撃的な報告があったためです。

 このようにバルプロ酸を服用している女性では妊娠に関して重大な問題があります。

 そのため、若年ミオクロニーてんかんに代表される思春期発症のてんかん女性にはバルプロ酸ではなく、ラモトリギン(ラミクタール)やレベチラセタム(イーケプラ)を選択して投与する場合が多くなってきています。しかし、これらが無効の場合にはバルプロ酸を1日量400mg~600mgの低用量で投与することもあります。

 また、乳幼児期からバルプロ酸を長期間続けている女性が妊娠可能年齢になった際には、担当医が上記の問題点をよく説明したうえで、バルプロ酸の量を減らしたり、バルプロ酸を他の薬剤に代えるなどの対応策を試みますが、なかなかうまくいかないこともあります。

 いずれにせよ、このように妊娠可能年齢になったてんかん女性はバルプロ酸に関連する様々な問題点があることを十分認識しておくことが重要です。

                          てんかん外来  皆川 公夫

第12回 バルプロ酸(デパケン):その1

2017-04-07

 バルプロ酸(デパケン)は全般発作(強直間代発作、欠神発作、ミオクロニー発作、脱力発作、強直発作、間代発作)の第一選択薬ですので、てんかん診療において非常に使用頻度が多い薬剤です。

 特発性全般てんかんの小児欠神てんかんでは欠神発作に加えて強直間代発作もおこることがあるため、両方の発作に効くバルプロ酸を第一選択とすることが多いですし、若年ミオクロニーてんかんではミオクロニー発作と強直間代発作がおこることが多いので通常は両者に有効なバルプロ酸が選択されます。また、このような特発性全般てんかんだけでなく、ウエスト症候群、レンノックス・ガストー症候群、ドラベ症候群などの難治性てんかんにもバルプロ酸はよく使用されます。

 バルプロ酸は半減期が短いので服用開始後2~3日で効果を確認できるというメリットがあるのですが、反面バルプロ酸は血中濃度の日内変動が大きいため日内変動を小さくするように工夫された徐放製剤(デパケンR、セレニカR)を使用することもあります。

 バルプロ酸の有効血中濃度は50~100μg/mlですが、これを越えるような高血中濃度になると以下のような副作用が出てくることがあります。

 バルプロ酸が高血中濃度になると血小板の数が少なくなることがあります。出血傾向が出るほど低下することはまれですが、10万/μLを割るようなときは投与量を減量して血中濃度を下げることが必要になります。例えば、ふだんの血中濃度が80μg/mlだったのにクロバザム(マイスタン)を併用したら、血中濃度が120μg/mlに上昇して血小板が10万/μL以下に低下したということがよくみられます。

 また、いままでバルプロ酸の血中濃度が有効濃度内にあって月経が規則的だったのに、クロバザムを追加したら血中濃度が上がって月経が来なくなったという患者さんもいました。この場合もバルプロ酸の減量により血中濃度が元に戻ったら月経が来るようになりました。

 さらに、バルプロ酸の血中濃度が高くなると血液中のアンモニアが高くなったり、カルニチンが低下したりすることもあるので注意が必要です。カルニチンについては前回の第11回のてんかんミニ知識で解説しましたので、参照してください。

 次回はバルプロ酸:その2を予定しています。

てんかん外来  皆川 公夫

第11回 てんかん診療におけるカルニチン欠乏

2017-02-09

 カルニチンは、脂肪酸からのエネルギー産生に必須の物質であるため、血中や組織内のカルニチンが欠乏すると、各臓器での脂肪蓄積、低ケトン性低血糖、高アンモニア血症、筋力低下、心筋症など様々な症状が出現し、生命に重大な影響を及ぼすことがあります。カルニチン欠乏に関連して、こどものてんかん治療においては3つのことに注意が必要です。

 一つ目は抗てんかん薬のバルプロ酸(デパケン)です。デパケンはこどものてんかんによく使われる大変有効な薬ですが、デパケン投与によりカルニチンが低下することが知られています。しかし、血中カルニチンの測定は保険適用がされていないため、てんかん診療においてはカルニチンを測定することができないという問題点があります。ただし、デパケン投与中の血中アンモニア濃度とカルニチン濃度に負の相関がみられることがわかっていますので、6ヵ月毎の抗てんかん薬副作用チェックの際にデパケン投与中の場合にはアンモニアの検査も行い、アンモニアがきわめて高値の場合にはカルニチンが低下していると判断し、補充のためにカルニチン製剤(エルカルチンFF)を服用させています。

 二つ目はピバリン酸(ピボキシル基)を含有している抗生物質です。フロモックス、メイアクト、トミロン、オラペネムなどでは長期服用によりカルニチンが低下することが指摘されています。短期間の投与では問題ないことが多いのですが、中耳炎などで数ヵ月にわたる長期投与によりカルニチンが低下し、重篤な症状を呈した症例が報告されています。とくにデパケン投与中の場合には抗生物質の種類に注意することが重要です。

 三番目は重症心身障害があって経管栄養のみで栄養を管理している場合です。経腸栄養剤の中にはカルニチンが入っていないものや大幅に不足しているものもありますので、使用する経腸栄養剤のカルニチン含有量をチェックすることが必要です。とくにデパケン治療中の場合には要注意で、エルカルチンの補充が必要になることがあります。

 以前はエルカルチンの処方の際には先天代謝異常症の病名が必要なため苦労した時代がありましたが、現在はカルニチン欠乏症の病名でOKになりました。これにならって、血中カルニチン測定もカルニチン欠乏の病名で一刻も早く保険適用されるようになることを望んでいます。

てんかん外来  皆川 公夫

第10回 抗てんかん薬と高脂血症 

2016-12-02

 健康診断などで、総コレステロールが高い、悪玉コレステロールが高い、中性脂肪が高いと高脂血症を指摘され、薬を飲んだり、食事に気を使っている方がおられると思います。

 私のてんかん外来で定期的に血液検査を行っている患者さんたちの中にも総コレステロールや中性脂肪が高い方がいます。ふとっている方もいますが、やせている方もいます。とりあえず食事指導を行いながら経過をみているのですが、比較的最近、テグレトールとアレビアチンによっても高脂血症がおこることがあるという情報をえました。

 テグレトールとアレビアチンは肝臓で代謝されますが、その際チトクロムP450という酵素を誘導することが知られています。ところが、このチトクロムP450酵素はコレステロールの合成にも関与しているので、テグレトールやアレビアチンを服用していると、この酵素が誘導されることによりコレステロールの値が高値になると考えられています。アメリカの論文ですが、テグレトールかアレビアチンを服用している患者さんに対してテグレトールやアレビアチンをこの酵素を誘導しないイーケプラやラミクタールに変更したところ、総コレステロール、悪玉コレステロール、中性脂肪の値が有意に低下したと報告しています。

 私の外来でテグレトールやアレビアチンを服用している患者さんで高脂血症の方はごく一部しかいませんし、これらの方の原因が必ずしも薬の影響かどうか断定できませんが、このようなこともあるという知識を持って対応していくことは重要と思います。

 私は小児科医ですが、子どものときから診ていてすでに成人になっている患者さんたちもたくさん診させていただいていますので、テグレトールやアレビアチンで心血管系および脳血管系疾患のリスクが高くなることがあるという知見は衝撃的でした。

 これからも長期間にわたるてんかん治療の場においては、いわゆる生活習慣病のチェックや対応にも真摯に取り組んでいかねばならないと痛感した次第です。

 

                           てんかん外来  皆川 公夫

第9回 抗てんかん薬の血中濃度

2016-09-01

 抗てんかん薬を服用すると体内で吸収、分布、代謝、排泄という過程をたどりますが、このような体内動態は複雑で薬物によってかなり異なります。

 抗てんかん薬を飲み始めてから安定した効果がえられるようになる(定常状態といいます)までの日数は薬の半減期(薬の血液中の濃度が半分になる時間)の約5倍といわれています。したがって、半減期の短いバルプロ酸(デパケン)やレベチラセタム(イーケプラ)などは2~3日で安定した効果がえられますが、フェノバルビタール(フェノバール)など半減期が長い薬は安定した効果がえられるまで1週間以上かかります。

 また、半減期が長い薬は1日1回ないしは2回など分服回数が少なくてもよいのですが、半減期が短い薬は1日2回ないしは3回など分服回数を多くしなければなりません。

 抗てんかん薬は脳に作用しますので、本来薬の効果は脳内濃度に関係します。しかし、診療の場で効果を評価する際には脳内濃度と相関するといわれている血中濃度を目安にします。

 従来の抗てんかん薬では有効血中濃度や中毒血中濃度が知られていて、効果や副作用の評価の際に参考としていました。とくにフェニトイン(アレビアチン)は特殊な体内動態のため有効血中濃度域が狭く容易に中毒を起こすため、定期的な血中濃度のモニタリングが必要でした。

 一方、2,006年以降に発売された新規抗てんかん薬は血中濃度測定の意義は少ないといわれており、有効血中濃度も確立されていません。

 しかし、ラモトリギン(ラミクタール)は他の併用抗てんかん薬との間に相互作用があるため、併用薬剤の種類によってラモトリギンの投与量が異なります。そのため、ラモトリギンの適切な量が投与されているかどうかを判断するためにラモトリギンの血中濃度を測定することが必要な場合があります。

 また、患者さんがふだんから怠薬していないかどうかのチェックにも抗てんかん薬の血中濃度測定は役に立ちます。

 このように抗てんかん薬の薬物動態に関する知識は合理的なてんかん薬物治療に結びつくことがあり、重要な学問になっています。

 

                           てんかん外来  皆川 公夫

 

第8回 てんかん発作に対する家庭での対応

2016-06-24

 てんかん発作は2~3分以内に止まることが多いのですが、5~10分以上経っても止まらない場合には自然に止まる可能性は少なく、さらに発作が持続する確率が高くなります。発作の持続時間が長いほど発作を止める治療に対する反応が悪くなりますし、発作のなかでもとりわけ全身けいれんが30分以上続くと脳神経細胞が低酸素と虚血により障害されることがあります。

 したがって、発作が5分以上続くときにはなるべく早く発作を止めることが必要になります。しかし、救急車を要請したとしても家から医療機関に搬送されて治療が開始されるまでの時間は30分以上かかることが多いと思われます。そのため、家庭に発作止めの薬を常備しておいて発作が5分以上続いた際にはまず発作止めを投与することが重要です。しかし、残念ながら日本では速効性があって家庭ですぐに発作を止めることができる有効な発作止めの薬がありません。

 現在使われているのはダイアップ(ジアゼパム)とエスクレ(抱水クロラール)ですが、ダイアップ坐薬は基剤が溶けて中から薬剤が出てくるのに時間がかかるため、投与して15分くらいたたないと効果がでてきませんので、速効性は期待できません。

 エスクレには坐薬と注腸キットがあります。坐薬にはゼラチンが含まれており、ゼラチンアレルギーのある人には投与できません。また、ダイアップと同じように坐薬は基剤が溶けるのに時間を要するため、注腸キットの方が速効性です。エスクレは投与されますと、体内でトロクロルエタノールに変化し、投与直後は抱水クロラールによって、その後はトリクロルエタノールによってけいれんを抑えるとされていますが、けいれんを止める効果の検証が未だ不十分のため、有効性の評価が定まっていません。

 このように、ダイアップ坐薬とエスクレ注腸キットの効果は限定的ですが、医療機関に到着するまでの間に少しでも発作を軽減させることができる可能性があるため、これらの発作止めを投与することをおすすめします。

 海外ではダイアップと同じ成分のジアゼパムの注腸キットを家庭で使用することができ、非常に速効性で有効です。また、日本で最近けいれん重積の静注治療薬として認可されたミダフレッサと同じ成分のミダゾラムの口腔粘膜投与製剤(ブコラム)が欧州では家庭で使用することができ、これも速効性で非常に有効な治療となっています。

 日本では、ジアゼパムの注腸キットの商品化は期待できない状況ですが、日本小児神経学会、ドラベ症候群患者家族会、日本てんかん協会などから小児てんかん重積に対する治療薬の口腔内粘膜投与ミダゾラム「Buccolam (ブコラム)®」の早期導入の要望があり、平成28年2月3日に開催された厚生労働省の医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議において「医療上の必要性が高い」と評価され、次のステップへ進むことになっています。

 てんかん外来  皆川 公夫

第7回 てんかんにおける突然死

2016-04-04

 今回は突然死という重いテーマについて述べたいと思います。てんかん患者さんにおける突然死のリスクは一般健常人の24倍にものぼると報告されています。
てんかん患者さんの突然死の原因として、外傷(発作による頭部外傷や交通事故など)、溺水(浴槽内での発作による)、自殺などがよく知られています。 一方、原因不明の突然死があることが古くから知られており、sudden unexpected death in epilepsy(SUDEP)と呼ばれています。SUDEPの発生率はてんかん患者さんの死因の10%を上回るとされています。
 SUDEPは「良好な状況にあるてんかん患者さんに起きる、突然の、予期せぬ、外傷や溺水が死因ではない死」と定義されており、てんかん重積による死は除くとされています。
SUDEPの危険因子として、①発作頻度が高い、②強直間代発作がある、③抗てんかん薬の多剤併用、④頻回の薬剤変更、⑤怠薬や急激な服薬中断、⑥夜間監視ができない、⑦罹病期間が長い、⑧若年成人、⑨男性、などが挙げられていますが、議論もあるようです。
 SUDEPの原因・病態はいまだ明らかにされていません。肺、心臓、脳に生じる異常のうち、どれがSUDEPの発生に本質的で最も重要な因子かについては結論が出ていません。最近はひとつの系だけの障害では説明がつかない現象であり、不幸にも何らかの理由でこれらが連鎖的に起きることで心肺停止に至るものと考えられています。ビデオ脳波モニタリング中にSUDEPに至った患者さんの報告では、はじまりは発作後早期に生じる自律神経系の遮断であり(それに対応して脳波では全般性脳波抑制がみられます)、引き続いて、一過性の無呼吸、徐脈・一過性の心静止がみられた後に、最終的に無呼吸、心静止、そして心肺停止に至ったとされています。なお、複雑部分発作では発作時に心静止があっても自然に回復することが多いのですが、二次性全般化発作では発作後に心静止となり、そのままSUDEPで死亡する率が高いと報告されています。
 今回は難しいお話になってしまいましたが、とくに患者さんが一人暮らしの場合には深刻な問題となりえますので、本人だけでなく家族の方々にも頭の片隅に留めておいていただければと思います。

てんかん外来  皆川 公夫

第6回 ドラベ症候群

2016-03-16

 ドラベ(Dravet)症候群とは、1978年フランスの女医Dr. Charlotte Dravetにより提唱されたてんかん症候群で、乳児重症ミオクロニーてんかんともいいます。
 乳児期に発熱により誘発され、特徴的なてんかん発作が生後1年以内の正常な乳児に発症し、1歳以降にはさらに様々な発作も付随して起きることが特徴です。日本人では入浴による体温上昇が発作の誘因となりやすいことも知られています。
 発症当初は熱性けいれんとの鑑別が難しい場合もありますが、本症候群では頻回のけいれん発作を反復し、しばしばけいれん重積状態を起こして緊急入院や集中治療管理を必要とします。最近、本症候群ではSCN1A遺伝子の変異がみられることが多いことがわかってきています。
 生後1年間は脳が急速に発達する時期ですが、この頻回のけいれん発作やけいれん重積によって脳が障害を受け、正常な乳児においても急速な精神運動発達の遅れが生じるとされています。1歳過ぎから遅れ始めますが、4歳以降になると遅れは鈍化するといわれています。また、2歳以降に運動失調、筋緊張低下、多動、錐体外路症状も出現します。
 長期予後は不良であり、経過中の致死率は16~19%で、突然死が最も多く、次いで急性脳症、溺死となっています。また、患者さんの半数以上は知能指数が50以下とされています。
 本症候群ではけいれん重積に対する対策が非常に重要です。自宅で発作がはじまった際に家族が常備の頓服薬を投与して発作を短時間で止めることができれば長時間の発作による脳障害が起こらずに済むので知能の退行を防ぐことができます。
 しかし、日本では残念ながら家庭で投与できる有効な頓服薬はありません。ダイアップ坐薬は効果が出るのに時間がかかりますし、エスクレ注腸キットの効果も限られているようです。
 海外では速効性に優れたDiastatという注腸薬やBuccolamという口腔粘膜投与製剤があり、家庭でも有効な治療ができるようになっています。
 ドラベ症候群患者家族会はこのBuccolamの日本での発売早期承認に向けて17万人分の署名も厚生労働省に提出しており、早期承認が期待されています。

                           てんかん外来  皆川 公夫


療養介護・医療型障害児入所施設 緑ヶ丘療育園
〒063-0003 北海道札幌市西区山の手3条12丁目3番12号
TEL.011-611-9301 FAX.011-621-7404
E-mail.midori@ryokkakai.or.jp