社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

ホームへ戻る

緑ヶ丘療育園

第13回 バルプロ酸(デパケン):その2

2017-06-12

 女性にバルプロ酸(デパケン)による治療を行う場合にいくつかの注意点があります。

 一つは食欲が亢進して太りやすくなるので、年頃の女性には大きな問題となります。ちなみに、トピラマート(トピナ)は逆に食欲が低下して痩せることがあります。

 もう一つは女性が子どもを希望して妊娠を考える場合の問題点です。

 てんかんミニ知識第2回に書きましたが、バルプロ酸を服用していると多嚢胞性卵巣症候群がおこる場合があります。多嚢胞性卵巣症候群になると、不妊症となって子どもが授かりにくくなってしまうことがあります。

 一方、多嚢胞性卵巣症候群にはならずに無事妊娠した場合でも、葉酸が不足していたりバルプロ酸の1日服用量が多い場合には、胎児に神経管閉鎖不全が生じて脊髄髄膜瘤などの先天奇形を認めることがあります。脳と脊髄の基になる神経管は妊娠4週で形成されるので、妊娠がわかってから慌てて葉酸を服用したりバルプロ酸の量を減らしてももう手遅れなのです。ですから、子どもを希望する場合には計画的に妊娠する必要があります。

 まず、妊娠3ヵ月以上前から葉酸0.4mgを毎日服用します。葉酸はドラッグストアにある葉酸サプリメントが1錠0.4mg(400μg)ですので、これを毎日1錠飲み続けます。

 次に、主治医と相談してバルプロ酸を徐放製剤(デパケンRあるいはセレニカR)に変更し、さらに可能であれば1日量を600mg以下(できれば400mg以下)に減らします。バルプロ酸の1日量が1000mgを超えると神経管閉鎖不全による奇形が生じる確率が高くなるためです。また、母親が妊娠中に1日1000mg以上のバルプロ酸を服用していた場合には生まれた子どもの知能指数が軽度低かったという衝撃的な報告があったためです。

 このようにバルプロ酸を服用している女性では妊娠に関して重大な問題があります。

 そのため、若年ミオクロニーてんかんに代表される思春期発症のてんかん女性にはバルプロ酸ではなく、ラモトリギン(ラミクタール)やレベチラセタム(イーケプラ)を選択して投与する場合が多くなってきています。しかし、これらが無効の場合にはバルプロ酸を1日量400mg~600mgの低用量で投与することもあります。

 また、乳幼児期からバルプロ酸を長期間続けている女性が妊娠可能年齢になった際には、担当医が上記の問題点をよく説明したうえで、バルプロ酸の量を減らしたり、バルプロ酸を他の薬剤に代えるなどの対応策を試みますが、なかなかうまくいかないこともあります。

 いずれにせよ、このように妊娠可能年齢になったてんかん女性はバルプロ酸に関連する様々な問題点があることを十分認識しておくことが重要です。

                          てんかん外来  皆川 公夫