社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

ホームへ戻る

緑ヶ丘療育園ーてんかんミニ知識

第11回 てんかん診療におけるカルニチン欠乏

2017-02-09

 カルニチンは、脂肪酸からのエネルギー産生に必須の物質であるため、血中や組織内のカルニチンが欠乏すると、各臓器での脂肪蓄積、低ケトン性低血糖、高アンモニア血症、筋力低下、心筋症など様々な症状が出現し、生命に重大な影響を及ぼすことがあります。カルニチン欠乏に関連して、こどものてんかん治療においては3つのことに注意が必要です。

 一つ目は抗てんかん薬のバルプロ酸(デパケン)です。デパケンはこどものてんかんによく使われる大変有効な薬ですが、デパケン投与によりカルニチンが低下することが知られています。しかし、血中カルニチンの測定は保険適用がされていないため、てんかん診療においてはカルニチンを測定することができないという問題点があります。ただし、デパケン投与中の血中アンモニア濃度とカルニチン濃度に負の相関がみられることがわかっていますので、6ヵ月毎の抗てんかん薬副作用チェックの際にデパケン投与中の場合にはアンモニアの検査も行い、アンモニアがきわめて高値の場合にはカルニチンが低下していると判断し、補充のためにカルニチン製剤(エルカルチンFF)を服用させています。

 二つ目はピバリン酸(ピボキシル基)を含有している抗生物質です。フロモックス、メイアクト、トミロン、オラペネムなどでは長期服用によりカルニチンが低下することが指摘されています。短期間の投与では問題ないことが多いのですが、中耳炎などで数ヵ月にわたる長期投与によりカルニチンが低下し、重篤な症状を呈した症例が報告されています。とくにデパケン投与中の場合には抗生物質の種類に注意することが重要です。

 三番目は重症心身障害があって経管栄養のみで栄養を管理している場合です。経腸栄養剤の中にはカルニチンが入っていないものや大幅に不足しているものもありますので、使用する経腸栄養剤のカルニチン含有量をチェックすることが必要です。とくにデパケン治療中の場合には要注意で、エルカルチンの補充が必要になることがあります。

 以前はエルカルチンの処方の際には先天代謝異常症の病名が必要なため苦労した時代がありましたが、現在はカルニチン欠乏症の病名でOKになりました。これにならって、血中カルニチン測定もカルニチン欠乏の病名で一刻も早く保険適用されるようになることを望んでいます。

てんかん外来  皆川 公夫