緑ヶ丘療育園 ー お知らせ
てんかんミニ知識 第20回 ペランパネル(フィコンパ)を掲載しました。
ペランパネル(フィコンパ)はゾニサミド(エクセグラン)以来、27年ぶりに日本で開発された抗てんかん薬で2016年5月に発売されました。フィコンパは後シナプスにあるAMPA受容体を高選択的かつ非競合的に拮抗し、グルタミン酸による神経の過剰興奮を抑制して抗てんかん作用を発揮するという新しい作用機序の抗てんかん薬です。二次性全般化発作を含む部分発作だけでなく、強直間代発作にも適応を取得しましたが、他の抗てんかん薬との併用療法となっており、対象患者は12歳以上となっています。ファースト・イン・クラスの薬として、既存薬では抑制されないてんかん発作にも効果が期待されています。現在、小児適応と単剤療法の適応の取得、錠剤以外の剤形の開発が準備されています。
フィコンパは半減期が長く、1日1回就寝前の服用だけでよいので、患者さんにとっては都合のよい薬と思います。また、不眠症の傾向のある患者さんでは夜寝る前にフィコンパを服用するとよく眠れるようになり、睡眠薬が不要になる場合もあるようです。さらには、前頭葉てんかんなど夜間睡眠中に発作がおきやすいタイプのてんかんへの有効性が期待されています。
フィコンパは前述したように新しい作用機序をもつ大変興味深い抗てんかん薬で、視床下部過誤腫の笑い発作、進行性ミオクローヌスてんかん、脳炎後てんかん、レノックス・ガストー症候群など様々なてんかんへの有効性が報告されています。てんかん診療ガイドライン2018において、フィコンパは部分発作と強直間代発作の第2選択薬として位置付けられていますが、今後どのようなタイプのてんかんに有効性が高いのか、特発性てんかんに対する有効性はどうなのかなどが明確になってくることが期待されます。
フィコンパは2mgから開始し、1週間以上の間隔をあけて2mgずつ漸増すると添付文書には記載されています。しかし、フィコンパにはレベチラセタム(イーケプラ)と同様、易怒性・攻撃性がみられることがあるため、開始量を0.5mgないし1mgとし、少量ずつゆっくり増量するという投与方法の方が時間はかかりますが、無難な場合があります。
また、フィコンパをカルバマゼピン(テグレトール)やフェニトイン(アレビアチン)と併用するとフィコンパの血中濃度が低下することが知られています。
クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)やクロバザム(マイスタン)はベンゾジアゼピン受容体に作用する薬ですが、耐性(慣れができて効果が低下すること)ができやすいことが知られています。受容体に作用する薬は耐性ができやすいのであれば、AMPA受容体に作用するフィコンパでも耐性ができやすい可能性が懸念されますが、フィコンパの耐性の有無についてはまだわかっていないようです。また、フィコンパの催奇形性についてのデータがまだ十分でないため、妊娠可能女性への投与の安全性は確認されていません。
ちなみに、第16回てんかんミニ知識にゾニサミドは抗てんかん薬(エクセグラン)ですが、抗パーキンソン病薬(トレリーフ)としても発売されていると記載しました。同様に、ペランパネルも抗てんかん作用以外にALS(筋萎縮性側索硬化症)への有効性が期待されており、現在孤発性ALSに対する医師主導型第2相臨床治験が行われており、興味深いところです。
てんかん外来 皆川 公夫
災害支援ナース派遣のお知らせ
北海道看護協会の要請により10月7日から10月10日まで厚真町へ災害支援ナース1名を派遣いたします。
てんかん外来 臨時休診日のお知らせ
平成30年 9月19日(水) 終日 ~ 9月21日(金) 終日
平成30年10月24日(水) 終日 ~ 10月26日(金) 終日
平成30年 11月 7日(水) 終日 ~ 11月 9日(金) 終日
休診させていただきます。
ご迷惑をお掛け致しますが、ご了承のほどお願い致します。
てんかんミニ知識 第19回 ラコサミド(ビムパット)を掲載しました。
ラコサミド(ビムパット)は2016年8月に発売された日本で最も新しい抗てんかん薬です。ビムパットの効能・効果は16歳以上のてんかん患者の二次性全般化発作を含む部分発作ですが、単剤投与も可能です。小児の適応はまだ取得されていませんが、年内には取得される予定と聞いています。
ビムパットは新しい作用機序をもつ抗てんかん薬です。フェニトイン(アレビアチン)、カルバマゼピン(テグレトール)、ラモトリギン(ラミクタール)は作用機序としてナトリウムチャネルの急速な不活性化を促進させますが、ビムパットはナトリウムチャネルの緩徐な不活性化を選択的に促進させることによりニューロンの過剰な興奮を抑制して抗てんかん作用を発揮するとされています。すなわち、ナトリウムチャネルの不活性化の促進が急速なアレビアチン、テグレトール、ラミクタールに対して、ビムパットはナトリウムチャネルの不活性化の促進が緩徐であるということが作用機序の違いとなります。一般的に同じ作用機序の薬剤を重ねて使用することは避けるのですが、ビムパットをアレビアチン、テグレトール、ラミクタールと併用することは上述のように作用機序が異なるため可能です。
ビムパットの効果に関しては抗てんかん薬の使用歴が7剤以上であっても25.8%の患者に部分発作消失が認められたとの報告があり、既存薬では十分な効果を示さない部分発作の患者に対しても有効性が期待できます。
ビムパットは主な副作用として浮動性めまいがありますが、眠気や精神症状は少ないといわれています。抗てんかん薬にはレベチラセタム(イーケプラ)、トピラマート(トピナ)、ペランパネル(フィコンパ)、ラミクタールなどをはじめ精神症状をきたすものがあり、自閉症や情緒障害のある患者には使いにくいことがありますが、ビムパットはこのような患者にも使用することが可能です。
また、テグレトールやラミクタールは薬疹の副作用が問題になりますが、ビムパットは薬疹のリスクが少ないといわれています。しかし、テグレトールやラミクタールで薬疹が出現した既往がある患者にビムパットを使用する場合には薬疹のリスクが高まる可能性があることに注意が必要で、投与する前に予め患者に薬疹が出た際の対応の仕方を指導しておくことが重要です。
このように、ビムパットは新規作用機序を有すること、良好な有効性と安全性が認められていること、臨床的に重要な薬物相互作用が認められないこと、線形性で用量依存的に血中濃度が上昇するなど良好な薬物動態プロファイルを有すること、てんかん患者での服薬継続率が高いこと、骨代謝や脂質代謝への影響が少ないことなど、多くの利点を有する抗てんかん薬として位置づけられています。
したがって、多くの国で部分発作にはイーケプラやラミクタールに次いでビムパットが使用されるようになってきています。
ただし、ビムパットは催奇形性についてのデータが未だ十分ではないため、現時点では妊娠可能女性への投与の安全性は確認されていません。今後催奇形性に関する安全性が確認されれば、ビムパットは妊娠可能女性にも使用可能となります。
てんかん外来 皆川 公夫
てんかんミニ知識 第18回 ラモトリギン(ラミクタール)を掲載しました。
ラモトリギン(ラミクタール)は前回のてんかんミニ知識第17回で紹介したレベチラセタム(イーケプラ)と同様、非常によく使われている新規抗てんかん薬です。
部分発作(二次性全般化発作を含む)をはじめ、全般発作の中の強直間代発作と定型欠神発作には単剤でも使用できますし、難治性てんかんの代表であるレノックス・ガストー症候群の全般発作にも他剤との併用療法として使用できます。
最近では、部分発作には従来第一選択薬だったカルバマゼピン(テグレトール)に代わって、ラミクタールやイーケプラが第一選択薬として使われるようになってきています。また、思春期の妊娠可能女性の全般発作にも従来第一選択薬だったバルプロ酸(デパケン)に代わってラミクタールやイーケプラの使用が推奨されるようになりました。てんかんミニ知識第13回に記載したように胎児に対するデパケンの催奇形性や認知機能・知能への悪影響を考慮して女性にはデパケンを避ける傾向にあるためです。
新規抗てんかん薬では血中濃度の測定の意義は少ないとされていますが、ラミクタールでは血中濃度の測定が非常に重要です。ラミクタールは他の抗てんかん薬との間の相互作用によりラミクタールの血中濃度が変化するためです。添付文書に併用抗てんかん薬の種類別にラミクタールの開始量、増量方法、維持量が記載されています。しかし、添付文書に示された維持量にしても効果が出ない場合があり、ラミクタールの血中濃度が低すぎることが原因のことがあります。このような場合にはラミクタールの投与量をさらに増量してラミクタールの血中濃度を適切な濃度に上げることによって効果がえられることがあるので、ラミクタールでは血中濃度の測定が非常に重要になるわけです。
ラミクタールの大きな問題点として薬疹が出ることがあります。場合によっては中毒性表皮壊死融解症、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)、薬剤性過敏症症候群等の全身症状を伴う重篤な皮膚障害があらわれることもあります。とくにラミクタールの増量方法が速すぎると皮膚障害が出やすいのですが、添付文書に従ってゆっくり増量すると薬疹が出る頻度は非常に低くなったといわれています。しかし、ラミクタールを使う際には予め患者さんや保護者に薬疹の可能性を説明し、薬疹が出現した際の適切な対処方法を説明しておくことが重要になります。
ラミクタールは添付文書に従って少量から時間をかけてゆっくり増量していくため、効果が出るのにかなり時間がかかります。場合によっては3ヵ月くらいかかることもあるので、速効性のイーケプラに比べると大きなデメリットになります。
また、ラミクタールは「双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制」という効能・効果があり、てんかん以外にも使用されることがあります。この効果と関連すると思いますが、てんかんの患者さんにラミクタールを投与すると認知面や情緒面に好影響がでることがあります。ただし、自閉症や知的障害などを合併しているてんかん患者さんでは逆に著明な興奮性や気分高揚をきたす場合があり、注意が必要です。
このように、ラミクタールは薬疹の副作用があること、効果を確認するまで時間がかかること、血中濃度の測定が必要なことなど様々な問題がある薬剤ですが、非常に有効な薬ですので、私はこれらの問題に適切に対応しながら難治な経過を呈している患者さんにもよく使っています。
てんかん外来 皆川 公夫
てんかんミニ知識 第17回 レベチラセタム(イーケプラ)を掲載しました。
レベチラセタム(イーケプラ)は新規抗てんかん薬の中では最もよく使われている薬です。
部分発作(二次性全般化発作を含む)には単剤で使用できますが、強直間代発作には他の抗てんかん薬との併用療法として使用されます。
4歳以上の小児には1日量20mg/kgから最大60mg/kg、成人では1日1000mgから最大3000mgを投与しますが、少量で効果がえられる場合と最大量で効果がえられる場合があります。錠剤の他に小児用のドライシロップ製剤もありますので、錠剤を飲めない患者さんには便利です。
イーケプラは吸収速度が速く、半減期も短いので、服薬後1時間くらいで血中濃度が最大になりますし、服用開始3日後には定常状態になるため早期に効果をえることができます。さらに投与量と血中濃度が相関するので、増やした分だけ血中濃度が上がります。このようにイーケプラは薬物動態学的に大変使いやすい薬です。
イーケプラがてんかんに効く機序(作用機序)は従来の抗てんかん薬とは全く異なる新しい作用機序であるため、従来の薬が効かない場合に試してみる価値があります。
また、イーケプラは他の薬との間に相互作用を起こさないので、他の抗てんかん薬や高血圧の薬など抗てんかん薬以外の薬とも併用できるというメリットがあります。
さらに、胎児に対する奇形発生率も非常に少ないので、妊娠可能な思春期の女性にも投与しやすい薬剤です。
以上のように、イーケプラは非常にメリットの多い抗てんかん薬ですので、最近は従来のカルバマゼピン(テグレトール)に代わって部分発作の第一選択薬として使用されることが多くなっています。ただし、イーケプラの投与によりイライラがおこることがありますので、もともと情緒面に問題がある患者さんには注意が必要です。
ラモトリギン(ラミクタール)もイーケプラと同様、最近は部分発作の第一選択薬として使用されていますが、ラミクタールには薬疹の副作用のリスクや併用薬剤との相互作用のため投与量を調節しなければならないという問題があります。
ちなみに、イーケプラには点滴静注用の製剤もあります。イーケプラの静注は速効性でけいれん重積にもよく効くのですが、この静注製剤の適応は一時的にイーケプラを口から服用できない状況にある患者に対しての代替療法のみとなっています。今後イーケプラ点滴静注製剤がけいれん重積にも使用できるよう適応拡大されることが望まれます。
てんかん外来 皆川 公夫
てんかんミニ知識 第16回 ゾニサミド(エクセグラン)を掲載しました。
ゾニサミド(エクセグラン)は日本で開発された抗てんかん薬で、1989年に発売されました。部分発作と全般発作の両方に適応があるので、ウエスト症候群をはじめ難治性のてんかんにも使われることが多い薬剤です。
エクセグランには、てんかんにも使用されるアセタゾラミド(ダイアモックス)と同様、利尿作用をきたす炭酸脱水素酵素阻害作用がありますので、脱水や代謝性アシドーシスには注意が必要です。
てんかんミニ知識第4回にも記載しましたが、エクセグランは発汗を減少させることがあるので、体温調節が障害され、高体温の持続につながるおそれがあります。特に夏季には体温が上昇しやすいため、高温環境下をできるだけ避けることが必要です。また、発汗減少から高体温や意識障害等を呈し、熱中症をきたした症例が報告されています。このため、夏季や高温環境下では、観察を十分に行い、発汗減少、体温上昇、顔面潮紅、意識障害等の熱中症の症状の発現に留意することが重要です。
また、エクセグランによる尿路結石がみられることがあります。とくに重症心身障害児では尿路結石の発生頻度が高いように思います。私の経験では腎盂に結石が陥頓して著明な水腎症をきたし、緊急手術を必要としたケースもありました。乳児や重症心身障害児では結石による痛みを訴えることができない場合もありますので、定期的な尿沈査検査で結晶の有無をチェックしたり、オムツなどに白い砂状の尿砂が出ていないかをチェックすることが必要です。そして結石が疑われるときには尿路系のCT検査や超音波検査を積極的に行うようにすべきと思います。結石が確認された場合には可能であればエクセグランを中止します。また、新規抗てんかん薬のトピラマート(トピナ)にもエクセグランと同様、尿路結石の副作用がありますので、エクセグランとトピナの併用は避けるべきと思います。
他には、エクセグランで精神症状、食欲低下、体重減少などの副作用がみられることがあります。
なお、2009年にエクセグランと同じ成分のゾニサミド製剤であるトレリーフがパーキンソン病治療薬として発売されました。ちなみに、抗てんかん薬エクセグランの薬価は100㎎錠が29.8円に対して、パーキンソン病治療薬トレリーフOD 50mg 錠の薬価は167.4円、100㎎に換算すると334.8円となり、同じゾニサミド製剤にもかかわらず、トレリーフはエクセグランの11.2倍も薬価が高くなっています。
てんかん外来 皆川 公夫
てんかんミニ知識 第15回 フェニトイン(アレビアチン)を掲載しました。
フェニトイン(アレビアチン)は1940年に発売された古くからある抗てんかん薬で、昔はフェノバルビタール(フェノバール)と並んで非常によく使われていましたが、最近は下記のような理由であまり使われなくなりました。
通常、抗てんかん薬は投与量と血中濃度が相関する線形動態をとります。すなわち、投与量を増やすと増やした分だけ血中濃度が上がるので、投与量の調整がしやすいのです。ところが、アレビアチンは非線形動態のため、投与量と血中濃度が相関しません。したがって、アレビアチンの有効血中濃度である5~20μg/mlを維持するための投与量の調整が大変難しくなります。血中濃度をもう少し上げたいために、適当であろうと思われる量を増やしても全然血中濃度が上がらない場合がありますし、逆にほんの少量増やしただけで20μg/ml以上の中毒濃度に達してしまうこともあります。また、いったん有効血中濃度域に維持された後、投与量を変更していないにもかかわらず血中濃度が上がって中毒濃度になる場合がありますし、逆に有効濃度以下に低下してしまうことがあります。そのため、定期的にアレビアチンの血中濃度を測定することが必要となります。
アレビアチンの血中濃度が中毒濃度に達すると急性中毒症状としてふらつき、眼振、振戦などの小脳失調症状が出現しますので、おかしいと気付くのですが、重症心身障害児者では小脳失調症状の急性中毒症状に気付きにくいので、注意が必要です。アレビアチンを服用中の重症心身障害児者では急に嘔吐や眠気が出てきたときにはアレビアチンの急性中毒を疑って血中濃度を測定した方がよいと思います。
アレビアチンの慢性中毒では小脳萎縮が生じ、進行すると、ふらつきがでてきたり、転びやすくなったり、歩けなくなったりするので、そのような場合は頭部CTかMRIをとるようにします。しかし、重症心身障害児者では上記の症状がアレビアチンの慢性中毒症状とは認識されずに、年齢や基礎の病態によるものとしてとらえられてしまうことがあるかもしれません。急性中毒の小脳失調症状はアレビアチンの減量、中止により改善して元に戻りますが、慢性中毒の小脳萎縮は不可逆的です。
他の副作用としては、アレビアチンを長期に投与すると毛が濃くなりますし、歯茎が厚くなってきますので、美容上の問題がでてきます。また、てんかんミニ知識第14回テグレトールのところで記載しましたように、チトクロムP450という酵素の誘導による高脂血症や骨粗鬆症、薬疹、胎児への催奇形性の問題などにも注意が必要です。
以上のようなことから、アレビアチンを継続服用中の場合には、アレビアチンを止めて副作用の少ない新規抗てんかん薬に切り替えていくことが望ましいのですが、この切り替えはなかなかうまくいかないこともあります。
てんかん外来 皆川公夫