社会福祉法人 札幌緑花会

札幌地区 緑ヶ丘療育園

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緑ヶ丘療育園ーてんかんミニ知識

第28回 てんかん重積治療薬スピジア点鼻液について

2025-09-26

 けいれんが5分以上続くと自然に止まる確率が少なくなります。そして30分以上続くと脳障害が生じる可能性が高くなります。したがって、けいれんが5分続いたときには「てんかん重積」とみなしてけいれんを止める緊急治療を開始することが必要になります。また、いつもより持続が長い遷延発作や何回も繰り返す反復発作もてんかん重積に移行しやすいため、早めに治療開始した方がよいとされています。さらに、けいれん出現後治療開始までの時間が短いほど治療薬剤が効きやすく、治療開始までの時間が長くなるほど効きが悪くなるという成績があり、この点からも早めの治療開始が勧められています。
 てんかん重積に対する医療機関での初期治療には速効性のベンゾジアゼピン系薬剤の静注が行われます。静注用注射液としてはジアゼパム(商品名セルシン/ホリゾン)、ミダゾラム(商品名ミダフレッサ)、ロラゼパム(商品名ロラピタ)の3種類があります。
 一方、家庭など医療機関外でのてんかん重積治療に関しては、第8回てんかんミニ知識「てんかん発作に対する家庭での対応」(2016.6.24)、第24回てんかんミニ知識「けいれん重積状態の治療薬ブコラム口腔用液について」(2022.10.20)に掲載しましたが、その中でブコラム口腔用液の投与対象が18歳未満の小児てんかん患者に限られ、成人には使用できないという問題点があることを指摘しました。現在もブコラム口腔用液は成人には適応外のままです。さらに昔からよく使われているダイアップ坐剤(成分ジアゼパム)も適応は小児のみです。すなわち小児期にはブコラム口腔用液やダイアップ坐剤を使用できても成人ではそれらを使用できないという大きな問題がありました。
 このような状況の中、てんかん重積の新たな治療薬としてジアゼパムの点鼻薬(商品名スピジア点鼻液)が2025年6月24日に製造販売承認を取得しました。年内に発売予定と聞いています。
 スピジア点鼻液は2歳以上の小児と成人に適応があり、医療従事者および介護者が使用できる薬剤です。ただし2歳以上6歳未満の小児には医師の監視下においてのみ行うこととされています。スピジア点鼻液は家庭など医療機関外で成人に対して使用できる初めての有効な治療薬であり、大いに期待されています。
 スピジア点鼻液は鼻粘膜からのジアゼパムの吸収を良くする工夫が施されていて、効果発現が1~2分と極めて速効性でかつ効果も長く続くようです。なお、効果が不十分な場合には4時間以上空けて再投与することもできます。
 スピジア点鼻液はスプレータイプで、5mg、7.5mg、10mgの3種類あり、1回使い切りで、室温(30℃以下)保存ですので、持ち運びが可能です。1回投与量は年齢と体重により指定されています。投与方法はスピジアを鼻孔に差し込んでプランジャーをカチッと音がするまで押すと成分のジアゼパムが鼻腔内に噴霧されます。投与量により1回1噴霧(片側)か2噴霧(両方に1噴霧づつ)します。
 スピジアの発売後には、家庭など医療機関外でのてんかん重積治療法としてブコラム口腔用液とスピジア点鼻液の二つが主流になると思われます。
 ただし、ブコラムは小児、スピジアは小児と成人と適応年齢が異なること、およびブコラムは口腔(頬粘膜)投与、スピジアは点鼻(鼻粘膜)投与と投与部位が異なりますので、この二つの治療法の使い分けについて担当医とよく相談しておくことが重要です。

てんかん外来 皆川 公夫